令和8年度税制改正大綱にて発表された「企業グループ間取引の書類保存の特例」は、令和8年3月31日に可決され、4月1日より施行されることとなりました。
これは実務家にとって見逃せない非常に重要な改正です。これまで移転価格税制(国外取引)の領域で議論されてきた「対価算定の妥当性」や「役務提供の実態証明」という考え方が、今回の改正により、事実上国内グループ間取引にも強く求められることになりました。
移転価格の専門家としての視点を交え、本改正のポイントと実務への影響を解説します。
目次
改正の骨格:なぜ今、書類保存なのか?
今回の改正により、内国法人が「関連者」との間で、無形資産の譲渡・貸付けや役務提供(特定取引)を行った場合、対価の額を算定するために必要な事項が記載された書類の保存が義務付けられます 。
注目すべきは、対象となる「関連者」に国外法人だけでなく国内法人も含まれる点です 。これは、従来から移転価格税制が対象としてきた「国外関連者」の定義から「外国法人」という限定を外したイメージであり、国内グループ間取引においても、移転価格税制に近い厳格な透明性が求められることを意味します 。
移転価格の実務との相似性
国内グループ法人からマネジメントフィー(経営指導料)を徴求する際、多くの企業が「移転価格税制の考え方を援用」して対価を検討されており、弊所代表の西村も、国内グループ法人間の対価設定の検討サポートを行ってきました。今回の改正で対象となる「特定取引」には、まさにこのマネジメントフィー(経営の管理又は指導)や、研究開発、広告宣伝などが明記されています 。
これまで、国内取引については「当局による反面調査が可能である」という理由から、国外取引ほどの厳格なドキュメント化は求められてきませんでした 。しかし、今後は以下の事項を事前に書面化し、保存しておく必要があります 。
- 資産又は役務の提供の明細(どのようなサービスを具体的に行ったか)
- 対価の額を算定するために必要な事項(なぜその金額なのか、算定根拠のロジック)
遵守しなかった場合の厳しいペナルティ
本制度の最大の特徴は、書類保存が法令に従って行われていない場合、「青色申告承認の取消事由」となり得ることです 。
青色申告が取り消されると、欠損金の繰越控除や各種税額控除などの優遇措置が受けられなくなります 。これは、単なる「経費の否認」以上に、企業経営に深刻なダメージを与える可能性を孕む”リスク”となります 。
専門家としての提言:今から着手すべき「守り」の体制構築
今回の改正の背景には、グループ会社間で恣意的に費用を分担するなど、詳細な計算根拠を提示せず、実質的な所得移転(利益調整)を行っている事例への厳しい視線があります 。
国内・国外を問わず、グループ間取引における「対価の妥当性」を説明するロジックの構築は、もはや移転価格担当者だけの課題ではなくなったと観ることもできるでしょう。グループ会社間の取引については、以下のような対応を通して、「守り」の体制構築をしておくことが推奨されます。
- 取引の棚卸し:現在、国内・国外の関連者と行っている役務提供や無形資産取引を抽出する 。
- 算定根拠の言語化:移転価格算定方法を援用し、第三者間比準価格やコストプラス法など、ロジカルな算定根拠を文書化する 。
- 情報入手体制の整備:特に外資系日本子会社などは、親会社から算定元資料を適時に入手できる体制を早急に整える必要があります 。
制度の趣旨は明確です 。今後は国内取引においても「移転価格の視点」を持ったドキュメント管理を標準化することが、有効な対応策となります。
おわりに:国内税務から広がる、国際税務への新しい視点
今回の「書類保存の特例」の創設により、国内グループ間でのマネジメントフィーや無形資産取引において、その「対価の妥当性」や「役務提供の実態」をロジカルに説明し、証憑を保存しておくことが青色申告承認を維持するための必須要件となりました。これまで「移転価格は国外取引の話であり、自社にはあまり関係がない」と考えていた企業も、国内に重要なグループ法人があるケースは少なくありませんので、本改正は、極めて卑近な国内税務の問題として関連者間取引を見直す大きな契機になるはずです。
また、こうした国内取引への対応を検討する過程で、多くの顧問税理士の先生方が、改めてグループ間取引の価格設定に目を向ける場面も増えると思われます。その際、移転価格税制の考え方を援用した実務的なアプローチが必要となりますが、そこには移転価格の専門家ならではの知見が大きな助けになります 。
国内取引の適正化をきっかけとして専門家との間で連携を深めることは、企業はもとより、顧問税理士の先生方にとっても、結果として、よりリスクの大きい国外関連取引への対応を自然な形で進める一歩にもなるかもしれません 。
参考文献
EY税理士法人 竹内茂樹 (2026)「TP Controversy Report〈102〉 【令和8年度税制改正】企業グループ間取引の書類保存の特例の創設」『月刊 国際税務』2026年03月号(Vol.47), 国際税務研究会
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